大阪地方裁判所 昭和41年(ワ)3333号 判決 1968年5月20日
原告 布江庄三郎
右訴訟代理人弁護士 吉田鉄次郎
被告 株式会社大運
右訴訟代理人弁護士 穂積荘蔵
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一申立
原告訴訟代理人は「被告は原告に対し金二〇四万円並びに右金員の内金九三万円に対する昭和四一年一〇月一三日以降内金一一一万円に対する昭和四二年六月二三日以降各完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする」との判決並びに担保を条件とする仮執行の宣言を求めた。
被告訴訟代理人は主文同旨の判決を求めた。
第二主張<省略>
理由
被告会社が海上運送その他を業とする株式会社であり、その発行済株式総数が六〇〇万株であること、原告が昭和三八年一〇月以来自己又は家族名義で二〇六五〇〇株の株式を保有する被告会社の株主であること、被告会社が昭和三八年九月決算期において株主に配当すべき利益金を計上しえない経理状況にあったことは当事者間に争いがない。そして同年一一月一日、原告と被告会社との間に、同日以降被告会社は原告に対し一ケ月金八〇、〇〇〇円、毎年二回中元及び歳末に各五〇、〇〇〇円の支払義務を負う旨の約束がなされたことも両当事者間に争いないところであるが、右金員支払の趣旨につき、原告が、右金員は、原告が被告会社に対し被告会社発行株式の価格維持のため被告会社発行済株式総数の一〇〇分の三以上に該当する現在持株数の保有を継続する義務を負担し、右義務を履行することの対価として支払われるものであるとするのに対し、被告会社は、右金員は利益配当不能による原告の損失を填補するために支払われるもので事実上の利益配当金に相当するものであるとするので、この点を判断する。
<証拠>を総合すると、被告会社は昭和三八年三月決算期までは利益金の配当を行っていたが、同年九月決算期には政府の金融引締政策、輸出を中心とする出荷扱いの伸び悩み、人件費の膨脹などの理由から大巾減収となり、経理上株主に配当すべき利益金を算出計上することを得ない結果になり、同年一一月八日開催の決算役員会兼取締役会の決議により、株主に対する配当による利益金処分案を含まない計算書類を定時総会に付議する旨決定したこと、同月三〇日開催予定の定時株主総会において、株主に対する利益配当による利益金処分案を含まない計算書類の承認決議を求めるにつき、事前に大株主の間での了解をとりつける為、会社の内規に従って監査役訴外西十郎を各大株主の許に派遣したところ、原告以外の大株主は不満ながらもほぼ株主に対する配当による利益金処分案を含まない計算書類の承認をする意向であったが、原告は右計算書類の承認を大いに不満とし、株主に対する利益金配当を行なわない場合には自分を被告会社の顧問に就任させるか、毎月一〇〇、〇〇〇円、毎年中元及び歳末に各五〇、〇〇〇ずつの金員の支払をなすよう要求したこと、被告会社としては、原告を顧問にする意思はなく、金員要求の点についても他の株主との関係もあって支払に応ずべきでないと考えていたが、原告は少数株主権を有することを強調し、定時株主総会に出席して株主に対する配当による利益金処分案を含まない計算書類の承認に対し強く反対の意見を述べ、あるいは少数株主権に基づき裁判所の許可を得て自ら臨時株主総会召集を敢行することもありうべき旨を暗に交渉に当った被告会社監査役訴外西十郎あるいは総務部長訴外野田光夫に対しほのめかし、前記顧問就任ならびに金員支払を強要したことが認められ、右認定に反する原告本人尋問の結果は採用することができない。そして、<証拠>を総合すると、原告の要求に対し、被告会社代表取締役訴外伊藤輝太郎、同総務部長訴外野田光夫等は同年一一月三〇日開催予定の定時株主総会において、株主に対する利益配当による利益金処分案を含まない計算書類の承認が反対意見などにより難行し、あるいは承認が得られない場合には、被告会社の得意先が主として信用を重視する輸出関係商社であるため直ちに取引が跡絶えると同時に金融機関からの金融も困難となることを極度に恐れ、金員支払要求のみは止むを得ず呑まねばならないと考えるようになったこと、そして金員支払要求には応ずるが月額一〇〇、〇〇〇円は高きに過ぎるため要求額減額の交渉に原告の親しい友人である被告会社取締役訴外高木国治を同年一一月二〇日頃原告のもとへ派遣したこと、交渉の結果昭和三八年一一月一日に遡り金額八〇、〇〇〇円中元及び歳末に各五〇、〇〇〇円の支払をなすとの点で合意に達したことが認められ、以上の認定に反する原告本人尋問の結果は信用することができない。そうすると、以上の事実によっては、本件契約に基づく金員支払が、原告が被告会社株式の一定数を保有しつづけることの対価であるとの原告主張事実は未だ認めることができず、他に右事実を証するに足る証拠はなく、叙上認定の事実と、<証拠>によって認めることのできる次の事実、すなわち、原告が当初要求していた月額一〇〇、〇〇〇円の金額が、原告所有の株式二〇六五〇〇株につき、被告会社において株主に配当すべき利益金を計上しえない経理状態となる直前である昭和三八年三月決算期の利益配当率一割二分、一株につき六円の割合で計算した配当金年額概算一二〇万円の一ケ月分に相当するものであったとの事実を総合すれば、原告の右金員要求が事実上の利益配当の要求であることが容易に推測できるのであって、右に反する原告本人尋問の結果は信用することができない。
そうすると、このような趣旨でなされた本件契約は他の株主に比較して原告を合理的な理由なく優遇するものであって株主平等の原則に違反し無効なることが明らかである。
よって、原告の本訴請求は爾余の点について判断するまでもなく理由がないからこれを棄却する<以下省略>。
(裁判長裁判官 日野達蔵 裁判官 露木靖郎 北野俊光)